あったかホイップ
小さいころから地下鉄が欠かせない足だったせいか、どうも地下階のコメダに足が向きます。
木漏れ日の差すパブリックエリアを歩き、エントランスで鮮やかな色彩と向き合えば、しかし、もぐらの気分は少しもしませんでした。


今年も、あちこちでプレミアム商品券「金シャチマネー」の幟を見るようになりました。
抽選に漏れたのは残念でしたが、たかが一個人のことです。それよりも、右手にお団子、左手にスマホを持った町娘、この時期だけ会える名古屋市のマスコットキャラクター(非公認)であるさくらが、自分は好きです。ちょんまげが愛らしいはち丸と、ねがいボシのかなえっちも好きです。遠くからでも、裏返しでもすぐわかります。だなも博士とかわいいエビザベスも好きです。最近見たのは、エスカレーターは右も左も立ち止まって乗ろうと呼びかける、交通局のポスターででした。
さくらが笑顔でいられるのは、きっと、いつもは表に出られなくても、たとえ公認のお墨付きがもらえなくても、みんながいてくれることが心強いからだと思います。それは、コメダが貸切状態よりも、にぎやかなほうが気持ちが安らぐのと似ていないでしょうか。
ともあれ、南アジア風の絵画と色とりどりの折り紙が見える席で、大好きなモーニングにしました。

あまり頼まないローブパンですが、ここでは切れ込みが十字なのは知っていました。何度かは、自分でも食べたと思います。
両手で開いたとき、ほかほかで、ふんわりいい香りがしました。大豆ではなく、パンそのものが持つ甘い香りです。リラックスして、あんことホイップを仕込みました。一度もとの場所にそっと置き、カップを十分に傾けてコーヒーを口に含んでから、落ち着いて食べました。
ひと口めは、いつもどおり切れ込みに対して正面から噛みつきました。やさしくです。それから、気持ち深めの切れ込みを活かして、ひとひらずつ食べました。ぜんぶで五口です。自分の口には少し大きかったですが、そのぶん、おいしいのがいっぱいに感じられました。幸せでした。
食べ終えてから、名鉄の雑誌と企画乗車券のパンフレットをゆっくり読んで、津島に思いを馳せました。
思えば松蔭高校和太鼓部の演奏を聴きに文化会館を訪ねてから、もう二年が経ちます。埋田追分の巨大な道標も、愛宕のコメダでチーズカリードッグを食べたのも忘れませんが、あのときに比べたら、愛知のことが、無知で怠惰な自分なりにいま少しわかってきました。
名鉄電車でなくても、名鉄バスでいいから、それとも佐屋路をずっと歩いて、十分な時間と予算があるときに、また行きたいものです。
