さんかく屋根の下

コメダ写真館

イシガミ
2023/12/03 08:58

真珠の輝き

誕生日に、郷里のコメダでケーキを食べました。

手帳を見返すと、3月21日(春分)、6月18日(父の日)、8月16日(送り火)と、大事なタイミングで日進を訪れ、そのたびにかつて毎晩のように通った米野木のコメダを訪ねているのがわかります。年4回と多くはないですが、どのときも、いまも大切な記憶と結びついています。

11月28日、自身の誕生日は凍える日没後に到着しました。母から、「あなたは雪の日の夕方に産まれたんだよ」と聞かされていたのに、それはいかにも似つかわしい気がしました。

田んぼの中の森の明るい洋館、わが家へ帰って来たよう

この日は、何を食べるか固く決めていました。前回のジャーマンに続くご馳走、ヒレカツです。

手づかみでヒレカツパンに、オリジナルドレッシングを

飲み物は、定番のコーンスープから——冷え切った身体も、すぐに元気を取り戻しました。


入店から、90分かけて完食しました。2人で食べて45分だったとしても、ひと皿にかける時間にしては長過ぎると思われるかもしれません。

たしかに、子どものころ苦手な野菜がキャベツの千切りだった名残りか、なかなか底が見えないその山が最後まで残りました。ついには和風しょうゆドレッシングに手をかけたのも本当です。

ですが、すべてよく噛んで食べ終えたときには、すでに好き嫌いの問題ではなく瑞々しさに満たされていました。最後の最後のヒレカツパンが格別においしく、文字通り満腹になりました。

この日のMVPには——主役のヒレカツは別として——クリーミーなポテトサラダを選びたいと思います。エビフライの前に、どこかで気軽なランチに、あのポテサラサンドをぜひ注文したくなりました。


デザートは、じつは決めかねていました。お腹の心配ではありません。秋らしくメープルシロップをいっぱいに感じられる、あのミニシロノワールが頭から消えずにいたからです。

メインディッシュを食べ終えたとき、心に浮かんだのは、竹の山のときと同じように、やはり弟のことでした。クリスマス産まれの彼は、家族で食べる誕生日ケーキは決まって、彼の日だけはホールのチョコレートケーキだったのです。

8等分して、7人家族みんなでテーブルを囲み母の淹れた紅茶と一緒に食べて、笑い合って、余りのひと切れは、翌朝、誕生日の彼が特別に食べられる決まりでした。

その思い出に導かれ、デザートを季節のケーキから選びました。

リンゴ、紫いもに続いて大好きなくるみを

この季節、はじめてのショコラを本格派のプレートで。

どこを食べても、濃厚でした。いつものコーヒーが何倍もおいしく感じられました。胡桃のぷちぷちとした食感は、チョコレートだけでは気持ちもたつくなか全体を通して心地好いリズムを与えてくれて、外側のほう、ガトーショコラかというチョコレートの塊が、あたたかいコーヒーと口の中で溶けていく時間が、最後まで幸せでした。


米野木のコメダは、こちらのフロアだと、あちこちのペンダントライトが宝石の色をしています。ルビー、エメラルド、アメジスト、サファイア、メノウ、トパーズ、アクアマリン、真珠……かつてよく座っていた窓辺のテーブル席は、帰るときふと見上げると、自身の誕生石であるトパーズではなく、メノウの色でした。

なるほどな、と思いました。そういうことにいい加減でも幸福なのが、父に似た自分の悪くないところに思えたからです。

どちらにしても、もし周囲を気遣わなければこの日もそこへ座っていたと思います。ただ、それは遠慮しました。それはこの自分が到着したとき、その後ろ側の隅っこに、若いカップルが、彼女のほうがこちらの背中が目に入る形で先客でくつろいでいたからです。

どこの誰なのかはもちろん知りません。だとしても、その2人だけの世界を乱したくありませんでした。

自分は、懐かしの店長とだけはもしかしたらおたがい顔で気づいていたとしても、そのほかは、余所者のままでいい、むしろそのほうがありがたいと思っていました。いまも帰郷を誇る気持ちがなければ、あれはいったいどこから人間なのだと思われたとて気にすることもありません。むしろ、一人の稀な客人として、日進のいまを生きるひとたちを刺激し、あるいは飛躍のきっかけにしてくれたらと、ずっと心中に抱いてきたのは、そのような願いです。

もしかしたら、いま故郷にこの自分の顔がわかるひとは、本当に米野木のコメダの店長しかいないのかもしれません。だとしたら、これから、たとえ狭くても頻回ではなくとも、その場所を起点にまた一から絆を結んでいこう——長いもの思いの果てに、何かが、少し逆転した気がしました。

前を向き、駅まで真っ直ぐに歩いて帰りました。地下鉄の横一列の座席に軽く背中を預け、昔と変わらない車掌のやさしい声の案内が聞こえたとき、ようやく、もう一度凍えた肩の力が抜けていくのを感じながら。


この日、米野木で買ったものが2つ、いえ、ひとつあります。

愛知県産いちじくを100%使ったジャムと普通のトースト

そう、憧れのコメ黒用カップ&ソーサーです。

誕生日と、素晴らしいディナーの記念に思い切って買いました。この有田焼で飲む淹れ立てのコーヒーは、コメダを知って以来、最高においしいです。

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3 件の返信 (新着順)
すぎま
2023/12/03 11:05

おはようございます。ヒレカツを食べられたのですね!1人で食べるにはちょっと量が多いかもしれませんが、ご堪能していただけたのなら何よりです。次は是非ポテサラサンドも味わってみてください。

何か大きな転機を迎える時に、ふと訪れたくなる場所があるのはとても幸福な事だなとイシガミさんの文章を拝読して思いました。ありがとうございます😇


イシガミ
2023/12/06 08:32

こちらこそ、あたたかいコメントをありがとうございます。
転機や、区切りをつけたいとき、訪れるべき場所があるのは本当にありがたいことだと思います。
ヒレカツはいちばんボリュームがあると思いますが、食べるのがゆっくりなだけでお腹にはちょうどいいですね。
次はぜひ、ポテサラサンドを。
一緒に、色んなメニューを発見していけたらうれしいです。

コーン
2023/12/03 10:24

おはようございます!
ヒレカツプレートの器、なんだかレトロで素敵です✨
記念にカップ&ソーサー購入されたのですね!良いですね😉✨
イシガミさんの1日の様子やその時感じたことを覗かせていただき、楽しく読ませていただきました♪


イシガミ
2023/12/06 08:28

ありがとうございます。
店長のこだわりなのか、有田焼か瀬戸焼かなと思いますがすごくいいプレートでした。
食べていくうちに文様が段々見えていくのも、また。
ありふれたコーンスープがとてもおいしく感じました。
これからも、楽しんでもらえたら幸いです。

mi-yan
2023/12/03 09:44

イシガミさん、
お誕生日🎂おめでとうございます🎊
イシガミさんにとって良い1年になりますように☺️


イシガミ
2023/12/06 08:25

ありがとうございます。
良い一年にしたいと思います。
一緒にコメダをたくさん楽しめたらうれしいですね。