イシガミ
2025/02/24 13:50
地下階の春
コメダの春は、描いていたさくらオーレにしました。これほど美しいとは。
最初は、そのまま口もとへ——うっとりする桜の香りが先か、天使のようなふわふわに触れたのが先か、ほとんどわからなくなるほど恍惚とし、食欲が倍増しました。隠された小倉あんを食べるところまで——その途中、何度目かでスプーンを刺し入れたとき一瞬、おいしそうな桜色がたしかに見えました。やがては小豆色が勝りながら、目に焼きついたあたたかなそれが、着くまでにずいぶん冷えた身体の芯まで染みました。
この場所で、この桜を選んでよかったです。いえ、その前にここにコメダがあることが幸いです。

食後に、少しだけ残ったオーレと、食前に開いていた図録に収められた肖像画を、心の中で振り返りました。
その絵というのは、特別史跡名古屋城西の丸御蔵城宝館の特別展「名古屋城と相応寺 ー家康を愛した女性 相応院の眠る寺」で見たものです。描いたのは尾張藩初代藩主、徳川義直(家康の九男)で、そのうち1幅に添えられた賛辞は、彼が亡き母を思ったものです。

柔和で、虚飾を排した心に染みる作品でした。
母のためにみずから菩提寺を建立したことも、子をなさなかった正室春姫をすでに大須にあった万松寺に葬らせたことも、自分には、世継ぎがきわめて重視された江戸時代らしい無惨というよりは、ただ一人の人間の素直な心情に受け取れました。
そしてどちらの寺にも、それが徳川御三家筆頭尾張徳川家の権勢によるのであれそうでないのであれ、心あるものならばいつでも訪ねて往時を思うことができるのは、いまを生きるわたしたちのありあまる幸福であり、それがこの先もずっと続くことを、コメダと、コメダのコーヒーとともに深く願いました。

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